stagio inc.|株式会社スタジオ

GOLD CRAFT

香川県高松市のプライウッド食器メーカー「GOLDCRAFT」。日本の高度成長期真っ只中である1963年に創業。高周波で熱をもたせたアルミ金型を、1立方センチメートルあたり数十トンの圧力をかけ、数層に積み重ねた突き板を立体的にプレスする成型方法でテーブルウエアを製造。当時翌年に控えた東京オリンピックや東海道新幹線の開通を控え、市場ではスーパーマーケットの出現、お茶の間ではテレビ番組「3分間クッキング」が放送開始になるなど、食卓においても消費の多様性が成長した活況の時代でありました。近年においては香川の産業の一つである「漆製品」の生地や、塗装による盛り皿や盆などを製造していたが、百貨店の弱体化に伴う卸問屋の不振や、中国マーケットの興隆による仕入れ原材料の価格変動などに翻弄され、苦しい時期が続いていた。

すべての製造を国内で行うプライウッド食器の専門メーカーはすでにGOLDCRAFTをおいて他になく、良い製品とノウハウの必要なその技術を日本においてしっかりと残して置く必要性を感じ、2014年よりstagio inc.がディレクションをスタート。多種多様な製品や仕様の整理と、工程や管理に手間のかかる「塗装と加飾」を排除。VIやコミュニケーションツールのデザインの刷新と同時に、表面材質を木の質感が楽しめる突板に限定したラインナップを構成することから手をかけて整えていく。

http://goldcraft.co.jp/

RE-BLANDING / ブランディングの方向性

リブランディングでは、製品そのものが持つ魅力をきちんと前面に出すことを初期の目標とした。幸い、国内のプライウッド製品には珍しい厚づき(0.6mm程度)の突板仕様や、接着剤等の補助剤など見えない部分においても日本製で品質と安全性の確かな材料を使うなど、品質と安全性においてはしっかりとポリシーを堅持していた社長の努力もあり、製品が持つべき信頼性というベースがすでに備わっている状態でのスタートであった。過剰な特徴やデザインが施された製品をラインナップから除外し、ゴールド工芸製作所が遺伝子として持つ「製造方法」がもたらす「いちばん素直な」形状を持つ製品を優先的に選択していく。

良い製品であるが故に拡大し、役に立ちたいと強く思うからこそ、客の要望に応えようと数多のバリエーションと加飾を重ねてきたゴールド工芸製作所。自身ではすでに見えなくなっている「普遍的に持っていた価値」や「それを使う人々の喜び」についてなんども話し合う。「市場は待ちわびている。」持っていた自信と想いの糸に、再度火をつけること。リブランディングの最初の一歩は「動き出したい」気持ちを作ることであった。

DESIGN DIRECTION / デザインしないデザインディレクション

デザインディレクションでは過剰な特徴やデザインが施された製品をラインナップから除外し、ゴールド工芸製作所が遺伝子として持つ「製造方法」がもたらす「いちばん素直な」形状を持つ製品を優先的に検討。会社や製品そのものが持つ魅力がきちんと前面に出た編成を目標とし、過去の膨大な製品サンプルや金型の確認を行いながら、8シリーズのラインナップを選択していった。ゴールド工芸製作所の製品の魅力は、その軽さや耐久性、耐水性など目に見えやすい機能の他に、量産品でありながらも同時に工芸的な性質と魅力をしっかりと残す「素朴さ」や「やさしさ」、「軽やかさ」といった目には見えない良さを持っていること。実際に手に取り、使うことでしか感じることができないこの不可視な魅力は、計画して生み出すことが大変難しく、ミッドセンチュリーに興った老舗インダストリーである「ゴールド工芸製作所の時間軸」が持つ総体的な特性とも言える。特殊なフォルムを持つものや、挑戦的な試みが光る過去の製品も散見されたが、まずは「一番素直な」形状を持つ製品を優先的に選択した理由もこのためである。

単純な形と単一の機能である食器のようなプロダクトは、なによりその機能性や安全性、安定した品質であることが大変重要である。市場への投入に先立ち、GOLDCRAFTではこれらの品質をより確かなものにするため製品仕様の見直しを行った。特に芯材となる材料においては安定的な確保と安全性、環境負荷や美観など考えて、従来のラワン材からすべてシナノキ材へ変更し、これに伴う厚みや最適プレス圧力の割り出し、木の質感をより豊かに感じられる表面処理方法の変更など、従来品と比べその内部は大きく進化している。加えて、ラインナップの中でも時代性に難がある形状においては、一部カットラインを変えるなど、その良さを生かす方法でフォルムの調整を行った。

シンプルであることが良さの条件であるような評価基準や、品質を担保するかのように使われる「職人による手作り」というワードが蔓延するなかで、GOLDCRAFTの製品は長年にわたる検証と改善の連続が重なり合い、シンプルという表現には収まりきらない密度と、明快さや豊かさ、健やかさを備えた道具として生産されている。stagio inc.にとっても、フォルムのリデザインに頼ることなく、その良さを引き出す方法でのデザインディレクションとして、よい一例になったと感じている。

COMMUNICATION DESIGN / ブランディングにおけるイメージ戦略

どれだけ良い製品、使い勝手が良く、安全性に優れた国内産のプロダクトであっても、その良さや魅力を「伝える」ことができなければゼロと同じであり、結果に結びつくことはほとんど無い。ゴールド工芸製作所では過去少なく無い回数、見本市や展示会に出展し、取引先を募ってきたが、バイヤーの関心を多く集めることはできなかった。製品は良いが、それを使いたくなるスタイルが提案できなかった。つまり、「使ってみたいと思わせられなかった」からである。

製品群をブランドとして興し、消費者へと届けるためには、製品のパッケージから栞、カタログ、DM、リーフレット、ウェブサイト、製品写真、イメージ写真、展示会の構成や設えなど、数多くの「イメージ作り」が必要である。その表現総体が戦略的に成功して初めて「欲しいかも」という心を初めて動かし得る。購入を検討するのはようやくここからである。プロダクトがよいだけではダメなのである。これらをメーカーやブランドが独自、自前で整えることには相当の努力と時間が必要であり、非常に難しいと言える。

stagio inc.では、そのコンセプトワークからディレクション、マーケット戦略を含めたプロダクトデザインとグラフィックデザインを行うことが多いため、「その表現総体を戦略的に成功させる」こと、すなわち「欲しい」と感じてもらいやすい「状況」を作ることを念頭に制作を組み立てるようにしている。ブランドロゴをはじめとし、そのあらゆる表現と場を「適切に整える」ことにより、目には入っているがその製品を「認識すらできない=見えてさえいない」という状況を少なくできるのである。実際、イメージを刷新して臨んだMD向けの展示会では、製品自体は大きく変わっていないにもかかわらず、以前と比較にならないほどの多数の来客と引き合いを実現できた。「伝わった」結果である。

VISION / 展望

GOLDCRAFTは、陶磁器を素材とする製品に比較してニッチな商品を扱うブランドである。その反面競合も少なく、プライウッドならではの特徴と雰囲気を生かした場面においては、大きなポテンシャルを秘めている。食卓における彩りとして、陶磁器以外のチョイスを訴求していく点は今まで通り続けていくが、木という素材がもたらす温かみや手触り、製法がもたらす軽くて丈夫、スタッキング効率の高さなどの特性を切り口に、その需要を掘り起こしていきたいと考えている。

現在はプレスという製法による成型形状上の制約を乗り越える技術の開発を試行錯誤している最中であるが、これが実現すれば、ラインナップの幅を大きく変えることとなるだろう。加えて、プライウッドであればもちろん、食器以外のプロダクトの開発も可能である。異素材とのコラボレートも含め、インテリアやファッションの市場にも大きな可能性が開けていると感じている。GOLDCRAFTが挑戦する今後の展開に是非ご期待いただきたい。